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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)833号 判決 1949年12月21日

被告人

川添辰美

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役参月に処する。

但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

控訴に関する訴訟費用は被告人負担とする。

理由

弁護人田中簾吾の控訴趣意は、要するに原判決の科刑は不当であるから、刑執行猶予の判決あり度しと謂うのである。よつて記録を精査し被告人の学歴経歴家庭の情況、本件犯罪の動機性に被害の弁償がなされていること被告人が本件犯罪後改悛の情顯著であつて現在漁業に專念し生活の安定を得られ再犯の慮なきに至つていること等を考えると正に本件被告人に対しては刑の執行猶予を与うるに足る情状あるものと謂うべく只原審が敢て懲役三月の実刑に処したのは本件犯行後の事件である窃盜に関し已に、昭和二十四年六月二十三日鳥栖簡易裁判所で懲役一年三年間執行猶予の裁判を受けているので重ねて執行猶予を与うべきでないとの考慮からであらうと思はれる。けれども仮りに本件二回に亘る窃盜行爲が先の鳥柾簡易裁判所で同時に審判を受けたならば必ずや全部を通じて執行猶予が与えられていたに違ひないと思はれるのであるから本件につき更に執行猶予を与えたところで刑法第二十五條に違反することもなく又これがために先の執行猶予の云渡が取消さるることはないと解せらるる(此の点については当裁判所の判例とした)のであるから、原判決の量刑につきてはなお考慮の余地があり本件控訴は理由あることに帰するので、刑事訴訟法第三九七條第三八一條第四百條但し書によつて原判決を破棄し、当裁判所自ら被告事件につき判決することとする。

原審の確定した事実に法律を適用すると、被告人の判示所爲は刑法第二百三十五條に各該当し、同法第四十五條前段の併合罪であるから同法第四十七條本文第十條に則り犯情の重い原判示第一の罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内で被告人を懲役参月に処しなお同法第二十五條を適用して本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予することとし訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第百八十一條を適用して主文の通り判決する。

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